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ネット&読書探索の遍歴
by kaursh
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佐野真一『東電OL殺人事件』
a0024788_20495868.jpg しばらく前に読み終えたのが、佐野眞一の『東電OL殺人事件』。昼間は東電のOLワタナベ、夜は渋谷界隈で売春、という二つの生活を日々送っていた。だが、1997年3月19日、夜の生活の途中、円山町の木造アパート喜寿荘の1階の空き部屋だった101号室で絞殺されてしまったという事件だ。有名企業のエリート社員が巻き込まれ、その裏の生活が暴露されたことで、世間を驚かせた事件だった。最近では、女子モーグルの五輪金メダリストでフジテレビ社員の里谷多英(28)がスキャンダラスな事件を起こしたが、コチラの方はハレンチな部分が注目されたが、東電OLの場合には、その人間性に対して多くの女性たちが興味を持つことになった。渋谷の風俗には、彼女のいた風景と共に事件について書かれている。容疑者となったのはそのアパートの鍵を一時期持っていたネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ。佐野の見解では冤罪の可能性が高いが、ゴビンダには高裁で有罪判決が言い渡されている。この本はなかなか取材が困難な題材だが、そうした障害に直面しながらも、佐野真一の気迫が伝わってくる重い内容のものだった。こうした感想を持つのは事件の特異な性質というよりも、実際の事件についての真摯なノンフィクションでありながら、佐野真一の意見を強く感じてしまう本であるためだ。
a0024788_20501733.jpg 東電OLのワタナベと佐野の距離は大きくかけ離れているように思える。佐野はワタナベの人格的な分裂が起こり、一つは父親を慕ってエリートを目指し続けながらもうまくいかずにいるOL、もう一つは渋谷界隈を徘徊して男性遍歴を重ねて堕落していく女、という二つの世界が彼女の表と裏を作っていた、と説明する。おそらく彼女が裏の生活を開始した時点では、佐野の見方に多くの部分で符合する所があったはずである。だが、彼女が裏の生活をまるで規則的に繰り返すようになってからもそうであったのかは明らかではない。東電OLに対して多くの女性たちが共感して、佐野の著書を読んで感想文を書き送ってきたらしいが、これは案外と女性たちの見方が佐野の見解に近いためなのかもしれない。続編『東電OL症候群』では、佐野は地方に住む『OL殺人事件』の愛読者の一人である中年の女性とワタナベの人間像と重ね合わせている。その中年女性は夫との仲はいいが、ある時から見知らぬ男性たちと関係を持つようになった。こうした佐野の連想は、彼の女性観の表れなのかもしれない。
 エリート意識を持っていながら、それ以上の昇進を望めないという挫折があったというが、ワタナベの二重生活はすでに社内の同僚にもそして自宅の家族である母と妹にも知られていたらしい。とすれば、彼女の人格はその生活の中で分裂していたというよりもむしろずっと統一されつつあったように思える。ある種の堕落ともいえるが、ワタナベは夜と昼の生活を次第に連続したものとして考えるようになり、その奔放な生活がベースになるように変貌を遂げてしまったのである。佐野真一自身、そうした破綻を指摘していながらも、ワタナベに対する幻想を払拭することができないでいるのだ。佐野真一の作品に共通しているのは、『巨怪伝』を含めて主役ともいうべき人物の実像が空白のままに全編が完成してしまっていることにある。彼自身の理解を超えた人々に対しても、入念な取材を重ねることでどうにか一冊の本を書き上げてしまう。このあたりの執念が彼の本の面白さの一つなのだろう。

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        by kaursh | 2005-04-03 21:14 | ノンフィクション
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